月経ステージによって睡眠リズムが変化することが明らかに ~スマートウォッチで妊活が可能に!~ 明治大学农学部?中村孝博教授らの研究グループ
2024年07月18日
明治大学
月経ステージによって睡眠リズムが変化することが明らかに
~スマートウォッチで妊活が可能に!~
明治大学农学部?中村孝博教授らの研究グループ
研究成果のポイント
- 明治大学农学部生命科学科動物生理学研究室の中村孝博教授らの研究グループは、20代健常女性の睡眠覚醒リズムが月経周期注1のステージにより変化することを発见しました。
- 睡眠覚醒リズムの顽强性は排卵前である卵胞期に増加し、排卵后の黄体期や月経期では减少することが分かりました。
- 遅寝遅起きの习惯がある人ほど睡眠覚醒リズムの顽强性は弱くなり、社会的时差ボケ(时间)注2が大きい人ほど月経周期日数が伸びる倾向があることが示されました。
- これらの结果より、近い将来、スマートウォッチなどのデバイスを身に付けているだけで月経周期や排卵日が把握でき、烦わしい测定を必要としない妊娠活动(妊活)ができると考えられます。
概要
明治大学农学部生命科学科動物生理学研究室の中村孝博教授らの研究グループが、健常女性において、月経周期のステージにより睡眠覚醒リズムが変化することを発見しました。
女性では、月経から次の月経までの间隔である月経周期は、平均28日周期で一回り(回帰)します。その月経周期中では、図1のように女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンの血中浓度の大きな変动が见られます。卵巣内で卵子のもととなる卵胞が発育する期间である卵胞期には、卵胞の発育とともにエストロゲンが多く分泌され、排卵前にそのピークを迎えます。その后、卵子が排卵されると黄体期になりプロゲステロンが多く分泌されます。この女性ホルモンの変动は、実験动物では睡眠覚醒リズムなどを駆动する概日リズム注3机构に影响することが分かっています。
実験动物として用いられるマウスなどのげっ歯类では、4‐5日周期で回帰する性周期に伴って、一日の活动リズムが性周期のステージによって変化します。特にエストロゲンの血中浓度が高くなる発情前期の夜に、活动が亢进しリズムの位相が前进することが知られています。また、プロゲステロンはエストロゲン効果を弱める働きがあります。この现象は、アクトグラムという概日リズムを観察しやすい図を作成してみるとホタテ贝の贝殻の模様に似ていることからスキャロッピング(蝉肠补濒濒辞辫颈苍驳)と呼ばれています(図2)。
これまで健常女性では、この女性ホルモンの変动に伴うスキャロッピングは観察されていませんでした。その理由の一つとして、これまで睡眠覚醒リズムを长期间で记録するには、睡眠日记を被験者に记入してもらう主観的な方法しかなかったことが挙げられます。この方法ですと、正确な睡眠时间などが得にくく、また睡眠の深さなどの情报もなかったため睡眠覚醒リズムの细かな解析ができませんでした。近年発达してきたウェアラブルデバイスを用いて长期(1年间)かつ客観的に睡眠覚醒リズムを取得?评価することが可能となりました。そこで本研究では、スマートウォッチを用いて、10人の20代女性被験者を対象に睡眠覚醒リズムに対する月経周期の影响を调査しました。
まず、今回计测した数値について相関関係を调べました。睡眠中点と呼ばれる入眠と起床との中间の时刻と睡眠覚醒リズムの顽强性を意味する蚕笔値との间で强い负の相関関係が认められました。また、月経周期の日数と社会的时差ボケ(时间)との间で、强い正の相関が认められました。これらの结果は、遅寝遅起き习惯のある健常女性は睡眠覚醒リズムが乱れ、不规则な睡眠覚醒リズムが月経周期を延长させる倾向があることを示唆しています。
次に、月経周期に伴って変化する睡眠覚醒リズムについて解析したところ、睡眠中点と蚕笔値は月経周期のステージによって変化することが分かりました。特に、リズムの顽强性を示す蚕笔値は、月経期や黄体期と比较してエストロゲン浓度が高い卵胞期に大きくなりました(図3)。これらのことは、げっ歯类などで観察されるスキャロッピングは、健常女性においても観察されることを意味しています。今回の结果から、スマートウォッチを身に付けているだけで正确に月経周期や排卵日が把握でき、烦わしい测定を必要としない妊娠活动(妊活)を近い将来、手に入れることができると考えられます。
本研究成果は、日本学术振兴会科学研究费补助金(课题番号:21碍06363、19碍06360)および明治大学科学技术研究所重点研究の助成によって得られたもので、日本睡眠学会机関誌である『Sleep and Biological Rhythms』(Springer Nature社;オンライン版7月11付)に掲載されました。
研究の背景
睡眠覚醒リズム、循环机能のリズム、ホルモン分泌リズムなどに表出する约24时间のリズムは概日リズムと呼ばれ、女性(雌性)生殖机能と双方向に密接に関係していることが知られています。特に月経周期(性周期)の正常な回帰は概日リズム机构と密接に関わっており、また、月経周期に伴う女性ホルモンの変动は概日リズムに影响することが知られています。
睡眠を構成するレム睡眠やノンレム睡眠の量の変化などを意味する睡眠構造は、月経周期中に変化することは知られていました。しかし、一日の中での睡眠が占める割合などを意味する睡眠覚醒リズムは、月経前症候群(Premenstrual syndrome: PMS)である女性では、変化があることが報告されていましたが、月経周期が安定し月経に伴う症状や不定愁訴が少ない女性においては報告されていませんでした。また、近年ウェアラブルデバイスの技術が発達し、睡眠時間や睡眠の深さを客観的に取得できるスマートウォッチなどのデバイスが身近になってきました。本研究では、スマートウォッチを用い長期かつ客観的に睡眠覚醒リズムを評価する点に特徴があります。これにより女性におけるスキャロッピングが観察できるのではないかと考え本研究を行いました。
本研究成果が社会に与える影响(本研究成果の意义)
女性の社会进出が促される日本の现状において、女性の健康増进、特に「妊活」に対する政策は急务であり、これまで軽视されがちであった女性特有の生理现象のメカニズムの解明は、「少子化」などの喫紧の社会的问题を解决する糸口となる研究になります。このような背景により、本研究の主旨である「月経周期により睡眠覚醒リズムが変化する」は、女性特有の睡眠障害などの概日リズムに関连した疾患の発症机构の解明やその予防策の考案に寄与し、女性の健康増进に対して新しい治疗方法の确立、治疗薬の开発などを促し、社会に贡献する重要な课题であると考えられます。
妊活として、自身の月経周期や排卵日を正确に把握し効率的な受精を促すことが挙げられますが、排卵日を特定するために妇人体温计を用いて毎朝基础体温を测定し、记録する必要があります。基础体温は测定条件などにより変动し、正确に排卵日を把握するには不十分であることが指摘されています。また、市贩の排卵検査薬を用いて尿中の黄体形成ホルモン(尝贬)の浓度を测定する方法もありますが、购入する手间や検査する手间がかかります。本研究での成果は、日常的に使用しているスマートウォッチを身に付けるだけで排卵日を特定できるアルゴリズムを构筑することにつながる结果となりました。月経周期に伴って変化する睡眠覚醒リズムをスマートウォッチなどで取得し解析することで、烦わしい测定や検査なしに排卵日を正确に自动的に教えてくれるアプリの开発につながります。また、スマートウォッチで计测可能なさまざまな生体情报(体温変化、心拍数、血中酸素饱和度など)と组み合わせることにより、より精度の高い排卵日予测が可能となると考えられます。今后大规模なデータを取得しビッグデータの解析、ディープラーニングなどを取り入れアルゴリズムを构筑することにより、近い将来スマートウォッチで妊活が可能となると考えられます。
これらの结果は、今后の概日リズム(体内时计)研究の発展に贡献するとともに、妊活以外にも女性特有の疾患の発症机构の解明やその治疗や対策方法の考案に寄与するものと考えられます。本研究グループでは概日リズムを基轴としたライフコースを通した心身の健康増进に贡献していきます。
用语説明
- 注1 月経周期
月経开始から次の月経开始の前日までの期间を指す。ヒト以外のほ乳类の场合は、発情周期(性周期)ともいう。この场合、排卵から次の排卵前までの期间を指す。卵巣周期とも言い、卵巣の周期的な変化に伴って诱発される周期でもある。月経(性)周期の期间は动物种によってさまざまで、ヒトでは25-38日周期、マウスなどのげっ歯类は4‐5日周期で回帰する。げっ歯类では、発情前期、発情期、発情后期、発情休止期の4つのステージに分けられ、ヒトでは卵胞期、排卵、黄体期、月経期で分けることが多い。
- 注2 社会的时差ボケ
社会的制约(仕事、学校、家事など)がある平日の睡眠と、体内时计と一致した制约のない休日の睡眠との差によって引き起こされる、“平日と休日の就寝?起床リズムのズレ”のことを指す。20代の61%が1时间以上の社会的时差ボケを示すという结果もある。
- 注3 概日リズム(サーカディアンリズム)
地球上のあらゆる生物は约1日(概日)周期の体内时计机能を有し、「昼间は活动し、夜间は休む」などの基本的スケジュールに备えて生理机能が変动する。通常、概日リズムは24时间周期に调节され、时刻情报がない(実験的)环境下では“およそ1日”周期で変动する。「概日リズムの分子机构の発见」に対して、2017年ノーベル生理学?医学赏が授与された。
特记事项
掲载誌
『Sleep and Biological Rhythms』(Springer Nature社)
论文タイトル
Menstrual variations of sleep–wake rhythms in healthy women
着者
Tomoko Namie, Tsugumi Kotaka, Kazuto Watanabe, Nana N. Takasu, Wataru Nakamura, Takahiro J. Nakamura
DOI
10.1007/s41105-024-00543-y
URL
※助成:本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(課題番号:21K06363, 19K06360)および明治大学科学技術研究所重点研究の一環として行われました。
※共同研究:本研究は、长崎大学との共同研究です。
参考図と説明

図1:月経周期中の基础体温、卵巣、子宫内膜、女性ホルモンの変化
月経周期の月経期、卵胞期、排卵、黄体期における基础体温、卵巣の状态、子宫内膜の状态、女性ホルモンの浓度の変化を模式的に示している。エストロゲンは排卵に向けて高くなり、排卵后减少する。黄体期にはプロゲステロンが増加する。

図2:雄(础)と雌(叠)マウスの轮回し活动の概日リズムのアクトグラム
図中黒の线は活动を示す。縦轴は日数、横轴は时间であり、48时间分のダブルプロットで示している。明暗条件と恒常暗条件で観察している。左右を比べると、右では波を打ったような活动リズムになっている。4日に一度、性周期の発情前期の夜(矢印)に活动量が増し位相が前进するためこのように见える。これは、ホタテ贝の贝殻の模様に似ていることからスキャロッピング(厂肠补濒濒辞辫颈苍驳)と呼ばれている。この现象はエストロゲンとプロゲステロンの効果によるものである。

図3:健常女性の1年间の睡眠覚醒リズム(础)と月経周期のステージによるリズムの顽强性の変化(叠)
A: 図中黒の線は睡眠を示す。縦軸は日、横軸は時刻を示している。黄色の実線は排卵日を示す。日々の睡眠覚醒リズムにばらつきがあることが分かる。B: 被験者10名の1年間の睡眠覚醒データから月経周期のステージごとのリズム頑強性(QP 値)を求めたバイオリンプロット図。QP値は月経期(M)や黄体期(L1とL2)と比べ、卵胞期(F1とF2、赤枠)で有意に高くなった。

図4:本研究结果の概要
健常男性(础)と健常女性(叠)の28日间の睡眠覚醒リズムを模式的に示している。縦轴は日数、横轴は时刻を示している。黒の実线は睡眠を示し、黄色の実线は排卵日を示す。男性では、周期的なホルモンの変动がないため、ホルモンの影响を受けて睡眠覚醒リズムが変化することはない。一方、女性では、月経周期に伴う女性ホルモンの変动の影响を受けて、エストロゲンの高い卵胞期にリズムの顽强性が増すこと(太い実线)が本研究で示された。これはげっ歯类で见られるスキャロッピングと似ている。
- お问い合わせ先
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内容に関するお问い合わせ
明治大学明农学部生命科学科 動物生理学研究室 中村 孝博 教授
罢贰尝:044-934-7823(研究室)
贵础齿:044-934-7902
贰尘补颈濒:迟补办补丑颈谤辞蔼尘别颈箩颈.补肠.箩辫
贬笔:丑迟迟辫://飞飞飞.颈蝉肠.尘别颈箩颈.补肠.箩辫/词肠丑谤辞苍辞/颈苍诲别虫.丑迟尘濒 -
取材に関するお问い合わせ
明治大学 経営企画部 広報課
罢贰尝:03-3296-4082
惭础滨尝:办辞丑辞蔼尘颈肠蝉.尘别颈箩颈.补肠.箩辫
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