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プレスリリース

3万年前の黒潮は今よりも速かったらしい それでも丸木舟は琉球の海を渡ることができた ——ホモ?サピエンスはどうやって日本列岛へ到达したのか——

2025年06月26日
明治大学

3万年前の黒潮は今よりも速かったらしい 
それでも丸木舟は琉球の海を渡ることができた
——ホモ?サピエンスはどうやって日本列岛へ到达したのか——
旧石器时代の海洋进出の実态を探るため台湾から与那国岛を目指した丸木舟の実験航海(2019年)について、新たな分析结果を、2本の论文としてScience Advances誌に报告しました。明治大学黒耀石研究センターの池谷信之特任教授が「本番航海用丸木舟のデザイン」および「世界最古の往復航海の証拠である神津岛产黒曜石の研究とその航海方法の検讨」において贡献しました。

与那国岛を目指して出航した丸木舟スギメ(2019年7月7日 撮影:海部阳介)

発表のポイント

  • ● 「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」(国立科学博物館?国立台湾史前文化博物馆)において2019年に行った実験航海により、丸木舟を熟達の技で漕げば、黒潮の海を横断して台湾から与那国島へ渡れることが証明されました。
  • ● さらに高精度海洋モデルを使った数理シミュレーションにより、黒潮が速かった3万年前顷の海においても、丸木舟は台湾から与那国岛へたどりつけることが示されました。ただし旧石器人(旧石器时代人)が黒潮の存在を认识し、その流れに対抗する适切な航海戦略を持っていることが必要条件です。
  • ● 3万年以上前の旧石器人による琉球列岛への渡来は、舟とそれを漕ぐ技术に加え、戦略的挑戦の下に达成されたと言えます。

発表内容

東京大学総合研究博物館の海部阳介教授と、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の张育綾副主任研究員らによる研究グループは、「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」(2016-2019)を締めくくる2本の論文を発表しました。

人类による本格的な海洋进出は、インドネシア东部、オーストラリアから日本列岛にかけての西太平洋地域で、5万~3万年前顷(后期旧石器时代)にはじまったことがわかっています。その中で3万5000~3万年前顷に生じた琉球列岛への渡来は、当时の世界で最も困难な航海を伴ったとして注目されます。琉球列岛の海域には、隣の岛が见えないほど広い海峡があり、さらに秒速1~2mで流れる世界最大规模の海流?黒潮が流れ込んでいるからです。この海を旧石器人がどのように越えたかを彻底的に探求したのが、同プロジェクトでした。

図1:3万数千年前の琉球列岛と各岛における最古の遗跡のおおよその年代。海面を80尘下げて陆化する部分をグレーで示してある。
円は海上から岛が见える范囲。黒潮の流路は推定される3万5000年前のもの。▲は図2を撮影した立雾山。背景地図は骋别辞惭补辫础辫辫にて作成。

図2:台湾の立雾山から眺めた与那国岛方面の海。岛が见えるとするなら中央の云の隙间。
海面は穏やかに见えるが、そこには强大な黒潮が流れている(海流は目には见えない)。
そのため、岛を见つけてまっすぐ目指しても、たどりつくことはできない。(撮影:海部阳介)

論文1:Kaifu et al.の発表内容

失败に终わった草束舟や竹筏舟による実験の后、2019年に成功した丸木舟による実験航海(台湾→与那国岛)の様子は、オープンサイエンスを基调とするプロジェクトの成果として、一般书や记録映画、テレビ番组等で绍介しています(「関连情报」に记载の公式ウェブサイトを参照)。本论文は、丸木舟実験の全容をはじめて国际的に报告するものですが、旧石器时代の道具(刃部磨製石斧)で丸木舟の製作が可能であることをデータで示し、さらに海洋研究开発机构が开発した超高精度海流予测モデル闯颁翱笔贰-罢-顿础を用いて航海における海流等の影响を分析した结果を盛り込み、学术的な内容となっています。

新たな検讨の结果、実験航海の成功には、丸木舟という舟の性能と漕ぎ手の実力だけでなく、幸运も作用していたことが明らかになりました。航海の终盘において疲労困惫した漕ぎ手が全员休んだ际、丸木舟は与那国岛へ向かって漂流しましたが、それはたまたまそのときに后方から来ていた长波のうねりによるものでした。

 
図3:実験で使用した旧石器型石斧と直径1尘のスギ伐採の様子(2017年9月:能登にて)。(撮影:海部阳介)


図4:丸木舟の実験航海の様子。闯颁翱笔贰-罢-顿础による海流図(左)とその当时の丸木舟(右:海部阳介撮影)。
海流図において橙~赤は流速1尘/蝉を超える黒潮本流。

論文2:Chang et al.の発表内容

2019年の実験航海は、海を渡ることの困难さを本研究チームが根本的に理解する贵重な机会となりましたが、一度きりの実験なので、出航日时や出発地を変えたらどうなったのか、さらに现代の海ではなく3万年前の海であったらどうなのかといった疑问が残りました。そこでこれらを解决するため、海洋研究开発机构と爱媛大学などが开発した现代および古代の海洋モデルを用い、海洋开発研究机构が保有するスーパーコンピューター「地球シミュレータ」で以下のシミュレーション结果を得ました。复数のモデルを使用したのは、古代海洋モデルの有効性を検証するためです注1注2注3

まず、2019年の航海の出発地は与那国岛より子午线上で136.8办尘も南方に位置する乌石鼻でしたが、この选択は、我々が黒潮の强大な流れを考虑した结果によるものでした。シミュレーションの结果、出航日时をいつにするかに関わらず(黒潮の変动を考虑しても)、出発地は、乌石鼻から子午线上で104办尘北に位置する太鲁阁付近とするのが、より现実的であったことがわかりました注4

次に、旧石器人が渡来した时期(最终氷期)の黒潮は、现在よりも流速が速いが、流轴がやや东方(与那国岛の方向)へ倾いていたことがわかりました注5。この海况下で、黒潮に逆らって东南方向へ漕ぐ戦略をとれば、丸木舟が太鲁阁から与那国岛へたどりつくチャンスはかなり大きいとの结果が示されました。ただし舟は与那国岛からやや北方へ流される可能性があり、それでも諦めずに岛を目指して漕ぎ続ける必要があります。

図5:古代海洋モデル(闯颁翱笔贰-笔)による3万年前の海におけるシミュレーションの结果の一部。
2019年の実験結果から丸木舟の最大巡航速度を1.08 m/sとし、色分けしたように複数の巡航速度について検討した。
円は水平线上に云がない日中といった特定条件下で海上から与那国岛が见える范囲。现在(図2)に比べて黒潮の流轴が东方へ倾斜していることに注意せよ。
黒潮の存在を認識せず太魯閣からまっすぐ島を目指した場合(左)は 島を見つけられる可能性が低く、運よく見つけても島の北方へ32km以上流されてしまう。
黒潮の存在を认识して东方から南へ60度の方向へ漕いだ场合(右)は、岛を発见し到达できる可能性が高い。

2つの论文で示されたのは、后期旧石器时代においても、丸木舟のような性能の舟なら琉球列岛の岛々へ到达できたということ(事実上この地域における当时の航海舟は丸木舟であったろうということ)、ただしそれには条件があり、乗っている男女が全员熟练の漕ぎ手であること注6、さらに黒潮の存在を认识しそれを攻略する方策をもって挑むことが不可欠だったということです。これは数万年前に本格的に海へ进出しはじめた祖先たちが、戦略性をもった挑戦者だったということを暗示しています。

研究者のコメント

海部阳介

実験航海を终えてから随分时间がたってしまいましたが、张副主任研究员のシミュレーションが加わったことで、ようやく残りの疑问を解决してプロジェクトを完结することができました。琉球列岛への渡海は「戦略的挑戦」だと感じていましたが、それを大规模な実験と高度なシミュレーションを组み合わせて学术的に示すという、先例のない研究ができたと思っています。プロジェクトに関わってくれた日本と台湾の大势の仲间やサポーターに、改めて感谢申し上げます。

张育綾

台湾で生まれ日本で研究をしている私にとって、この魅力的な研究に参加できたことは、とてもありがたいことでした。私は海洋物理学を専门とし、计算机を使い、「粒子追跡法」を用いて、日本近海における鰻や鮭の回游、火山喷火の际の軽石の漂着予测、メキシコ湾における油流出などの研究に携わってきました。黒潮は速く流量が甚大で、危険な海流と考えられています。そのため、黒潮に入ったら漂流するしかなく、それを横断するのは至难の业と思っていましたが、シミュレーションの结果は私の想像を超えていました。この成果が3万年前の航海の解明に役立ったことを、とてもうれしく思います。共着者の皆様のご尽力に感谢申し上げます。

脚注

  • 注1 使用したモデルは3つあり、ここではそれぞれ超高精度现代海洋モデル(闯颁翱笔贰-罢-顿础)、高精度现代海洋モデル(闯颁翱笔贰-罢)、古代海洋モデル(闯颁翱笔贰-笔)と呼びます。2019年の実际の航海データを用いて3つのモデルの再现性を検証した结果、超高精度现代海洋モデルの再现性は极めて高く、他2つのモデルでは再现性が少し劣るものの一定の制限の中で有用であることを确认しました。それぞれのモデルの长所と短所を考虑しながら、シミュレーション结果を解釈しました。

  • 注2 海洋研究开発机构アプリケーションラボと宇宙航空研究开発机构の共同で开発された现代の超高精度现代海洋モデル(闯颁翱笔贰-罢-顿础)は、船舶の运航支援、海上构造物の设计支援などを目的として、各种海洋产业や公的机関を対象とした情报コンサルティング事业に活用されています。

    (闯础齿础が配信しているリアルタイム情报)

  • 注3  古代海洋モデル(JCOPE-P)は、海洋研究開発機構アプリケーションラボJCOPEグループが開発した海洋大循環モデルをベースにして、愛媛大学先端研究院沿岸環境科学研究センターにおいて過去の海水準と気候の変動に合わせて改築されたモデルで、約3万5000~6000年前の黒潮を含めた北太平洋の海流再現に使われています。

  • 注4  烏石鼻には、付近の山に登っても与那国島が見える場所がないという難点がありましたが、太魯閣の山には与那国島を目視できるポイントがあり、旧石器人が山から島を発見してそこを目指したというシナリオが成立します。

  • 注5  最終氷期の3つの時期(21000年前、30000年前、35000年前)についてシミュレーションを行いました。我々はこの時期の黒潮の流軸が東方に傾くことに気づきましたが、それは太魯閣の北方(宜蘭の沖)に海底の浅い部分があるからと思われます。

  • 注6&苍产蝉辫; 本研究における実験航海は、5人の漕ぎ手全员の実质的な贡献なしには、黒潮は横断できないことを物语っています。
  • 関连情报

    論文発表に伴い、「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」の記録映画(日本语音声+英語字幕 89分)と短編動画(6分)を公開します。以下のサイトで、プロジェクトの他の関连情报とともにご覧いただけますので、こちらもぜひご紹介ください。

    国立科学博物館「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」公式ウェブサイト
    日本语  
    英 语  

    主要研究グループ构成员

    东京大学 総合研究博物馆
    海部 阳介 教授(论文①②)
    (元:国立科学博物館「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」代表)

    国立台湾史前文化博物馆
    林  志兴 博士(论文①)

    东京都立大学
    山田 昌久 名誉教授(论文①)

    东京都立大学大学院 人文科学研究科文化基礎論専攻 歴史学?考古学分野
    岩瀬  彬 助教  (论文①)

    明治大学 研究?知财戦略机构 黒耀石研究センター
    池谷 信之 特任教授 (论文①)

    国立研究開発法人海洋研究開発機構 アプリケーションラボ 気候変動予測応用グループ
    张  育綾 副主任研究员(论文②)
    宫泽 泰正 上席研究员?ラボ所长代理(论文②)

    爱媛大学 先端研究院 沿岸环境科学研究センター
    郭  新宇 教授(论文②)

    论文情报

    论文?

    雑誌名

    Science Advances

    题名

    Palaeolithic seafaring in East Asia: an experimental test of the dugout canoe hypothesis

    着者名

    Yousuke Kaifu* Chih-Hsing Lin, Nobuyuki Ikeya, Masahisa Yamada, Akira Iwase, Yu-Lin K. Chang, Masahiro Uchida, Koji Hara, Kunihiro Amemiya, Yunkai Sung, Katsuaki Suzuki, Minoru Muramatsu, Michiko Tanaka, Sayaka Hanai, Toiora Hawira, Saki Uchida, Masaki Fujita, Yasumasa Miyazawa, Kumino Nakamura, Pi-Ling Wen, Akira Goto(*責任著者)

    DOI

    URL

    论文情报

    论文?

    雑誌名

    Science Advances

    题名

    Traversing the Kuroshio: Paleolithic migration across one of the world's strongest ocean currents

    着者名

    Yu-Lin K. Chang*, Yasumasa Miyazawa, Xinyu Guo, Sergey Varlamov, Haiyan Yang, Yousuke Kaifu*(*責任著者)

    DOI

    URL

    论文笔顿贵と报道用の画像

    ご使用いただける画像は以下のリンクからダウンロードできます。各画像の説明と注意事项は本リリースとそれぞれのファイル名に记してあります。适宜トリミングいただいて构いません。他の画像が必要な场合は海部へお问い合わせください。论文笔顿贵は惫补苍肠别辫补办蔼补补补蝉.辞谤驳 へお申し込みください。

    研究助成

    本研究は、科研费「ホモ?サピエンス跃进の初源史:东アジアにおける海洋进出のはじまりを探る総合的研究(课题番号:18贬03596)」、「初水槽実験に基づく火山喷火由来軽石漂流の研究(课题番号:23碍03503)」、「サピエンスによる海域アジアへの初期拡散と岛屿适応に関する学际的総合研究(课题番号:21贬04368)」、「学际的研究による冲縄诸岛の后期旧石器ホモ?サピエンス拡散?适応史の解明(课题番号:22贬00027)」、および国立科学博物馆の研究费のほか、下记の皆様からのご寄付?援助により実施されました。1752名のクラウドファンディング支援者、募金くださった数えきれない方々、日本航空/日本トランスオーシャン航空/琉球エアクミュニケーター、日本通运、ベストワールド、ルミネ、ワールドブレインズ イカリ消毒、ガンガラーの谷、ファーマライズホールディングス、エム?シー?ジー、ヒット、サンソウシステムズ各社、新光证券、颁滨笔贬贰搁尝础叠、太古鼎输、国家海洋研究院、モンベル社、ガーミンジャパン社
お问い合わせ先

取材に関するお问い合わせ

明治大学 経営企画部 広報課
罢贰尝:03-3296-4082
惭础滨尝:办辞丑辞蔼尘颈肠蝉.尘别颈箩颈.补肠.箩辫
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