日本政治におけるジェンダーの见えない壁 日本人は女性候补を好む一方で当选可能性は低いと认识している
2025年06月24日
明治大学
日本政治におけるジェンダーの见えない壁
日本人は女性候补を好む一方で当选可能性は低いと认识している
発表のポイント
- ● 日本の有権者に、个人的に「望ましい」と思う候补と、「选挙で胜利しそう」と期待する候补との间にズレがあるか、すなわち「选好—期待ギャップ」があるかを検証しました。
- ● 分析の结果、女性候补に対してこのギャップが强く现れ、平均的な有権者は个人的には女性候补を男性候补と同等以上に好む倾向があるにもかかわらず、他の有権者は女性候补を选ばないだろう、つまり女性候补は男性候补より当选しにくいと认识していることが分かりました。
- ● 选好—期待ギャップは、自分の一票を生かすために、个人的には好ましいと感じても当选可能性が低そうな候补者を支持?支援しない「戦略的差别」と呼ばれる行动の背景にあると考えられます。
- ● 本研究の结果は、日本政治におけるジェンダー格差の解消が进まない背景に「选好—期待ギャップ」が関わっている可能性を示唆し、今后の女性候补の选挙戦略の検讨に贡献するものです。
明治大学政治経済学部の加藤言人(かとう げんと)専任講師、Queen’s UniversityのFan Lu助教授(Assistant Professor)、早稲田大学社会科学総合学術院の遠藤晶久(えんどう まさひさ)教授らの研究グループは、有権者の多くは女性候補に好印象を抱いているにもかかわらず、「どうせ他の有権者は女性を選ばないだろう」と考えてしまう、そんなすれ違いの存在を明らかにしました。
日本の政治家になぜ女性が少ないのかについてはさまざまな研究がされてきました。これまでの研究では有権者が女性政治家に対してバイアスを持つかどうかについては研究者间で一贯した见解が得られていませんでした。本研究では、有権者の个人的な「选好」(谁が好ましいか)と、他の有権者が谁を支持するかについての「期待」(谁が当选しそうか)の间に生じる「选好—期待ギャップ」注1が、これまでの研究结果に一贯した説明を提供できると论じます。
オンライン调査を用いて2回のコンジョイント実験注2を行った结果、日本の有権者は个人的には女性候补を好む倾向があるにもかかわらず、女性候补が男性候补よりも当选しにくいと认识する倾向もあることが明らかになりました。选好—期待ギャップは、女性候补への投票を控える「戦略的差别」注3の一因となりうるメカニズムであり、日本政治における女性の过小代表の要因を理解する上で重要だと考えられます。

(1)これまでの研究で分かっていたこと
日本は、国际的に见ても絶対値として见ても女性政治家が非常に少ない状态が続いています。しかし、日本の有権者が选挙で女性候补者に対してバイアスを持っているかどうかについては、先行研究で一致した见解が得られていませんでした。米国では、2020年の大统领选挙における民主党予备选挙で、女性は本选挙で当选しにくいと予期(「期待」)されたことから、本当は个人的に好ましいと考えていても、女性候补者への支援?支持を控える「戦略的差别」という行动パターンが见られたという指摘があります。ただし、米国における研究は、限定された文脉の中で行われてきたため、その知见が他の地域?选挙でも适用できるかどうかについては含意が不明确でした。
(2)今回の研究で明らかになったこと
本研究は、米国の先行研究で指摘されていた戦略的差别のメカニズムを精査し、有権者の个人的な「选好」と「期待」の间にあるギャップ(选好—期待ギャップ)がその中心にあると定式化しました。その上で、女性候补者に対する选好—期待ギャップが、米国とは政治?文化背景が大きく异なる日本においても存在するかどうかを検証しました。このギャップが日本でも存在していれば、日本で女性の政治进出が进まない背景について、有権者の视点から新しい理解が提供できると考えられるからです。
手法として、米国での研究で用いられたものを参考に、オンライン调査を用いたコンジョイント実験を2回実施しました。コンジョイント実験では、调査回答者に性别や政党、年齢、経験などの属性をランダムに组み合わせた架空の候补者ペアを提示し、どちらが政治家としてより「望ましいか」(选好タスク)または「选挙で胜利しそうか」(期待タスク)を选択してもらいました。
実験により、以下の点が明らかになりました。
- ● 平均的な日本の有権者は、男性候补よりも女性候补を政治家として望ましいと选択する倾向が见られました。
- ● しかし、期待タスクでは结果が逆転し、平均的な日本の有権者は、男性候补が女性候补よりも当选しそうだと期待する倾向が见られました。
- ● 选好—期待ギャップは、候補者の政策や政党、選挙レベル(国政 vs. 地方)を考慮しても一貫して存在しました。
- ● 探索的な分析では、女性、およびよりリベラルなジェンダー観を持つ调査回答者の间で、选好—期待ギャップがより大きくなる倾向が见られました。
(3)研究の波及効果や社会的影响
本研究は、政治分野でのジェンダー格差が大きい日本において、有権者は女性政治家を好む一方で、女性政治家の当选期待は低いという「选好—期待ギャップ」が存在することを初めて明らかにしました。これは、私たち有権者が、女性候补に対して个人的にはバイアスを持っていなくても、社会全体では女性政治家に対する见方への期待をアップデートできていない可能性を示唆しています。
选好—期待ギャップは、当选可能性が低いと感じた候补への投票が避けられる「戦略的差别」のメカニズムの一部として机能し、女性候补者の当选を阻む一因となっている可能性があります。よって、本研究の知见は、日本政治において女性の少ない现状を有権者の视点から説明するメカニズムに、选好—期待ギャップが考虑されるべきであることを含意しています。
本研究の结果は、日本政治におけるジェンダー格差解消のためには、女性候补者への「选好」を高めるだけでなく、実は日本社会における男女平等意识が决して低くない、という「期待」をアップデートしていく必要もあることを示唆しています。日本社会のジェンダー格差における変化の乏しさを强调し、人々の意识の変化を捨象すると、反対に女性候补者への支持?支援を委缩させる可能性もあります。これらの含意は、选挙における広报や启発活动の検讨にも贡献すると考えられます。
(4)课题、今后の展望
今后の研究课题は、「选好—期待ギャップ」が実际に日本の有権者の政治行动や投票选択においてどのような役割を果たしているのか、実証的に评価することです。选好—期待ギャップがもたらす影响が、国ごとに异なるのかどうか、検証を行っていく予定です。また、选好—期待ギャップは、女性候补者に対してだけでなく、若者や民族的、性的マイノリティなど、政治において过少代表されるグループに属する候补者に対しても适用できる概念です。女性以外の属性を持つ候补者においても、选好—期待ギャップの有无や影响を検証していこうと计画しています。さらに、有権者だけでなく、政党の干部など候补者拥立に関わる政治エリートの间にも同様のギャップが存在する可能性があります。よって、候补者拥立时の意思决定において「戦略的差别」が生じているのかどうかを探る、理论的?実証的な検讨が発展するきっかけとなる研究でもあると考えています。
(5)研究者のコメント
これまでの投票行动研究は、日本人有権者が女性候补者を必ずしも低く评価しないと指摘してきました。その结果、日本政治における女性の过少代表に関する近年の研究は、有権者の意识よりも候补者拥立の制度やプロセスに注目するものが多いです。本研究は「选好—期待ギャップ」の概念を导入し、有権者の视点からこの问题に取り组むことの重要性を改めて示しました。私たち研究者にとっても、有権者の1人として、社会の现状に対して思い込みを持っていないか、その思い込みが気づかぬうちにジェンダー平等を阻害するような行动につながっていたりしないか、考え直す机会になりました。今后、有権者视点の研究がさらに発展することを期待しています。
(6)用语解説
- 注1 选好—期待ギャップ
有権者の「个人的に望ましいと思う候补」(选好)と、「他の有権者が支持しそう/选挙に胜利しそうな候补」(期待)との间に生じる考えのズレ。 - 注2 コンジョイント実験
调査回答者に复数の属性をランダムに表示した选択肢のペアのどちらかを选択してもらうことで、どの属性が选択に影响を与えるかを统计的に明らかにする手法。 - 注3 戦略的差别
选挙において、本当はある候补が好ましいと考えていても、その候补の当选可能性が低いと认识した场合、より当选可能性が高いと期待される候补を代わりに支持?支援すること。米国では、女性や民族的マイノリティの候补に生じていると指摘されてきた。
(7)论文情报
雑誌名
Public Opinion Quarterly
论文名
The Preference-Expectation Gap in Support for Female Candidates: Evidence from Japan
执笔者名(所属机関名)
加藤言人(明治大学), Fan Lu*(Queen’s University), 遠藤晶久(早稲田大学)
掲载?时(?本时间)
2025年5月23日(online first)
掲载鲍搁尝
DOI
(8)キーワード
女性候補、选好—期待ギャップ、当選可能性、戦略的差别、ジェンダー格差
(9)研究助成(外部资金による助成を受けた研究実施の场合)
科学研究费助成金?基盘研究(础)「日本から世界への「行动政治学」の発信:オンライン実験による非合理的政治行动の研究」(19贬00584)
- お问い合わせ先
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取材に関するお问い合わせ
明治大学 経営企画部 広報課
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