「植物は自身を分解することでリン酸欠乏に即座に対応する」明治大学农学部生命科学科 吉本光希教授の研究グループがリン酸欠乏早期段阶に働く新规応答机构を発见
2022年04月01日
明治大学
「植物は自身を分解することでリン酸欠乏に即座に対応する」
明治大学农学部生命科学科 吉本光希教授の研究グループが
リン酸欠乏早期段阶に働く新规応答机构を発见
明治大学农学部生命科学科 吉本光希教授の研究グループが
リン酸欠乏早期段阶に働く新规応答机构を発见
明治大学 农学部 生命科学科?環境応答生物学研究室の吉竹悠宇志(助教)、篠崎大樹(博士後期課程2年兼日本学術振興会特別研究員)、吉本光希(教授)の研究グループは、リン酸欠乏の早期段階でオートファジーが小胞体注1を分解し、细胞内のリン酸をリサイクルしていることを発见しました。
オートファジーとは、酵母や动物、植物など真核生物に広く保存されている细胞内成分の分解机构の一つで、细胞内の不要な成分や古くなった成分を分解することで、细胞の品质维持や、栄养成分のリサイクルに重要な役割を果たしています。
■植物の叁大栄养素の一つ?リン酸の欠乏早期段阶において、植物オートファジーが小胞体を特异的に分解することで、小胞体に含まれるリン酸をリサイクルしていることを発见しました。
■この小胞体分解机构は、これまで知られていたリン酸欠乏応答机构より早く応答するため、「早期リン酸欠乏応答机构」という新たなリン酸欠乏応答机构を提唱しました。
■植物はリン酸欠乏ストレスに対して、早期および后期の応答机构を使い分けることで、时空间的に不均一なリン酸浓度环境に适応していると考えられました。
■この适応メカニズムを理解することで、场所?时期によって欠乏の度合いが异なる世界中のリン酸欠乏土壌において、それぞれの环境に适した作物を栽培する技术等の开発が期待されます。
植物の生育においてリン酸は欠かすことの出来ない重要な栄养素であり、リン酸欠乏は植物の生育に重篤な影响を与えます。しかし、土壌中のリン酸はカルシウムイオンやマグネシウムイオンといった金属イオンと结合して植物が吸収できない形态を取ってしまうため、植物はしばしばリン酸欠乏に晒されています。これまでの研究で、リン酸欠乏时に植物の细胞内では核酸や生体膜を构成するリン脂质が分解酵素によって分解され、そこに含まれていたリン酸がリサイクルされていることが知られていました。
一方、本グループは、オートファジーが栄养欠乏时における植物の生育に重要であることを报告してきました。
>『植物は自身を分解することで体内の金属バランスを保つ』明治大学农学部生命科学科 吉本教授の研究グループが新規モデルを提唱
>窒素施肥が植物をリン酸欠乏から救うメカニズムを解明 -オートファジーの活性化が生育に寄与-
今回、本グループは、モデル植物であるシロイヌナズナを用いた研究で、リン酸欠乏の早期段阶においてオートファジーが自己成分を分解することでリン酸をリサイクルしていることを発见しました。さらに、この际のオートファジーが何を分解しているのか、どのようにして诱导されるのか解析しました。
その结果、早期リン酸欠乏时に、オートファジーによる特异的な小胞体の分解(贰搁ファジー)が诱导されること、この贰搁ファジーは细胞内に流入した鉄を介した过酸化脂质蓄积による小胞体ストレスによって引き起こされることが分かりました。
さらに、早期リン酸欠乏时に引き起こされる贰搁ファジーは、これまで知られていた后期リン酸欠乏応答机构を抑制することも示唆されました。今回発见された早期リン酸欠乏応答机构と従来知られていた后期リン酸欠乏応答机构を使い分けることで、植物は时空间的に不均一なリン酸浓度环境に适応していると考えられます。
この研究は、JSPS科研費 新学術領域研究「マルチモードオートファジー」(領域代表 順天堂大学 小松雅明教授、計画班代表 吉本光希)、科研費基盤B(代表 吉本光希)および日本科学協会 笹川研究助成 (代表 吉竹悠宇志) の援助により行われました。本研究成果は、2022年3月20日にイギリスの科学誌「The Plant Journal」のオンライン版に掲载されました。
リン酸は窒素、カリウムと共に植物の叁大栄养素と呼ばれるほど植物の生育に欠かすことの出来ない重要な栄养素であり、リン酸欠乏は植物の生育に重篤な影响を及ぼします。しかし、土壌中のリン酸は少ない上に、カルシウムイオンやマグネシウムイオンといった金属イオンと结合して植物が吸収できない形态を取ってしまうため、植物はしばしばリン酸欠乏に晒されてしまいます。植物は、このようなリン酸欠乏ストレスに対して、细胞内の核酸や生体膜を构成するリン脂质を分解することで、そこに含まれているリン酸をリサイクルしていることが知られていました。これまで、リン酸リサイクル机构はリン酸を含む细胞内成分を酵素反応によって分解すること、そこで働く酵素が欠损した植物はリン酸欠乏下での生育が抑制されることが知られていました。しかし、细胞内成分を液胞注2へと输送して分解するオートファジーがリン酸のリサイクルおよびリン酸欠乏下の生育にどのような影响を与えるのか、その详细は分かっていませんでした。
本研究では、まず、10日間生育させたシロイヌナズナの野生株およびオートファジー不能体をリン酸欠乏培地に移植し、8日間生育させ、表現型を観察しました。その結果、オートファジー不能体では生育が野生株よりも著しく抑制されていることを発見しました (図1A)。また、リン酸欠乏培地に移植後、経時的に葉に含まれるリン酸含量を測定したところ、移植後2、3日目という早期のリン酸欠乏時において、オートファジー不能体のリン酸含量が野生株よりも低下していることを見出しました (図1B)。このことから、オートファジーは早期リン酸欠乏時のリン酸リサイクルに関与していることが分かりました。
次に、早期リン酸欠乏時のオートファジーが何を分解しているのか明らかにするために、緑色蛍光タンパク質によって標識した各細胞内小器官の挙動を共焦点レーザー顕微鏡により観察しました。その結果、早期リン酸欠乏時に小胞体が特異的に液胞へと輸送されている様子が観察され (図2)、オートファジーによる小胞体の特異的な分解(ERファジー)が引き起こされていることが明らかとなりました。また、早期リン酸欠乏時に小胞体ストレス注3が引き起こされており、この小胞体ストレスによって贰搁ファジーが诱导されていることも明らかにしました。
さらに、早期のリン酸欠乏时に生育环境中の鉄の量を制限すると、小胞体ストレスが缓和され、贰搁ファジーが抑制されることも见いだしました。また、ガスクロマトグラフィーによる解析の结果、早期リン酸欠乏时において、小胞体の主要构成膜脂质は鉄を介して酸化され、过酸化脂质として蓄积されることが分かりました。加えて、过酸化脂质蓄积の阻害剤を処理したところ、早期リン酸欠乏时に贰搁ファジーが抑制されたことから、早期リン酸欠乏时に鉄を介した小胞体ストレスが贰搁ファジーを引き起こしていることが示されました。
最后に、早期リン酸欠乏时に贰搁ファジーが引き起こされない小胞体ストレス応答変异体を用いて、后期リン酸欠乏応答机构の一つである膜脂质転换注4の度合いを解析しました。その结果、小胞体ストレス応答変异体では早期リン酸欠乏时にもかかわらず、后期応答の一つである膜脂质転换が引き起こされていました。その一方で、后期リン酸欠乏时では野生株および小胞体ストレス応答変异体との间に膜脂质転换の度合いに差は见られませんでした。このことから、贰搁ファジーの抑制は后期リン酸欠乏応答机构を活性化させているのではなく、诱导タイミングを前倒ししていることが考えられました。
このように、植物には従来知られていたリン酸欠乏応答機構よりも早い段階で誘導されるリン酸リサイクル機構が存在し、そこにオートファジーによる選択的な小胞体分解が関わっていることが分かりました (図3)。
后期リン酸欠乏応答机构には、核酸分解酵素などによる细胞内成分の分解の他に、根の形态変化など、不可逆的な応答が知られています。植物は、早期リン酸欠乏応答机构を用いることで、雨などで他の土地からリン酸が再供给された际に、速やかに元の状态に戻って生育を再开することができるのではないかと考えられます。
世界中にリン酸欠乏土壌は広く存在しますが、その欠乏の度合いは场所によって异なっています。本成果により、植物は时空间的に不均一なリン酸浓度环境に适応していることが示され、その适応メカニズムを理解することで、その环境に适した作物を栽培する技术等の开発が期待されます。
Autophagy triggered by iron mediated ER stress is an important stress response to the early phase of Pi starvation in plants
(日本语タイトル:鉄依存性小胞体ストレスによって诱导されるオートファジーは早期リン酸欠乏下でのリン酸再供给に関与する)
Yushi Yoshitake, Daiki Shinozaki, Kohki Yoshimoto
The Plant Journal
注1)小胞体
细胞内小器官の一つ。合成されたタンパク质の折り畳み(フォールディング)やカルシウムイオンの贮蔵などを行う。
注2)液胞
细胞内小器官の一つ。细胞内物质の分解?贮蔵を担う。
注3) 小胞体ストレス
タンパク质の异常な折り畳みなど小胞体の机能に异常が生じた际に発生するストレス。
注4) 膜脂質転換
植物が特异的に有するリン酸欠乏応答机构の一つ。生体膜を构成するリン脂质を分解することでリン脂质中のリン酸をリサイクルすると同时にリン酸を含まない糖脂质が消失したリン脂质の机能を相补する。
図1
(础)リン酸欠乏时の生育の様子。スケールバーは1肠尘を示し、白矢头は枯死した
叶を示す。
(B)リン酸欠乏培地に移植後の第1, 2本葉内のリン酸含量。*は野生株とオートファジー不能体との間に有意に差があることを示す。(Dunnett法)
図2.&苍产蝉辫;叶肉细胞内の共焦点レーザー顕微镜写真
緑色は各细胞内小器官、マゼンダは叶緑素を示している。
丸い叶肉细胞内の暗く抜けている部分は液胞であり、白矢头はオートファジーによって液胞へ输送された小胞体を指す。スケールバーは10μ尘を示す。
図3. 本研究成果により明らかとなった早期リン酸欠乏応答機構の模式図
早期リン酸欠乏时に细胞内に流入した鉄が生体膜を酸化することで过酸化脂质が蓄积する。过酸化脂质の蓄积を介した小胞体ストレスは贰搁ファジーを诱导することで小胞体に含まれるリン酸を细胞内にリサイクルする。贰搁ファジーによって细胞内に再供给されたリン酸は膜脂质転换をはじめとした后期リン酸欠乏応答机构を抑制する。罢字の矢印は抑制することを示す。
オートファジーとは、酵母や动物、植物など真核生物に広く保存されている细胞内成分の分解机构の一つで、细胞内の不要な成分や古くなった成分を分解することで、细胞の品质维持や、栄养成分のリサイクルに重要な役割を果たしています。
本件のポイント
■この小胞体分解机构は、これまで知られていたリン酸欠乏応答机构より早く応答するため、「早期リン酸欠乏応答机构」という新たなリン酸欠乏応答机构を提唱しました。
■植物はリン酸欠乏ストレスに対して、早期および后期の応答机构を使い分けることで、时空间的に不均一なリン酸浓度环境に适応していると考えられました。
■この适応メカニズムを理解することで、场所?时期によって欠乏の度合いが异なる世界中のリン酸欠乏土壌において、それぞれの环境に适した作物を栽培する技术等の开発が期待されます。
要旨
一方、本グループは、オートファジーが栄养欠乏时における植物の生育に重要であることを报告してきました。
>『植物は自身を分解することで体内の金属バランスを保つ』明治大学农学部生命科学科 吉本教授の研究グループが新規モデルを提唱
>窒素施肥が植物をリン酸欠乏から救うメカニズムを解明 -オートファジーの活性化が生育に寄与-
今回、本グループは、モデル植物であるシロイヌナズナを用いた研究で、リン酸欠乏の早期段阶においてオートファジーが自己成分を分解することでリン酸をリサイクルしていることを発见しました。さらに、この际のオートファジーが何を分解しているのか、どのようにして诱导されるのか解析しました。
その结果、早期リン酸欠乏时に、オートファジーによる特异的な小胞体の分解(贰搁ファジー)が诱导されること、この贰搁ファジーは细胞内に流入した鉄を介した过酸化脂质蓄积による小胞体ストレスによって引き起こされることが分かりました。
さらに、早期リン酸欠乏时に引き起こされる贰搁ファジーは、これまで知られていた后期リン酸欠乏応答机构を抑制することも示唆されました。今回発见された早期リン酸欠乏応答机构と従来知られていた后期リン酸欠乏応答机构を使い分けることで、植物は时空间的に不均一なリン酸浓度环境に适応していると考えられます。
この研究は、JSPS科研費 新学術領域研究「マルチモードオートファジー」(領域代表 順天堂大学 小松雅明教授、計画班代表 吉本光希)、科研費基盤B(代表 吉本光希)および日本科学協会 笹川研究助成 (代表 吉竹悠宇志) の援助により行われました。本研究成果は、2022年3月20日にイギリスの科学誌「The Plant Journal」のオンライン版に掲载されました。
1.背景
2.研究手法と成果
次に、早期リン酸欠乏時のオートファジーが何を分解しているのか明らかにするために、緑色蛍光タンパク質によって標識した各細胞内小器官の挙動を共焦点レーザー顕微鏡により観察しました。その結果、早期リン酸欠乏時に小胞体が特異的に液胞へと輸送されている様子が観察され (図2)、オートファジーによる小胞体の特異的な分解(ERファジー)が引き起こされていることが明らかとなりました。また、早期リン酸欠乏時に小胞体ストレス注3が引き起こされており、この小胞体ストレスによって贰搁ファジーが诱导されていることも明らかにしました。
さらに、早期のリン酸欠乏时に生育环境中の鉄の量を制限すると、小胞体ストレスが缓和され、贰搁ファジーが抑制されることも见いだしました。また、ガスクロマトグラフィーによる解析の结果、早期リン酸欠乏时において、小胞体の主要构成膜脂质は鉄を介して酸化され、过酸化脂质として蓄积されることが分かりました。加えて、过酸化脂质蓄积の阻害剤を処理したところ、早期リン酸欠乏时に贰搁ファジーが抑制されたことから、早期リン酸欠乏时に鉄を介した小胞体ストレスが贰搁ファジーを引き起こしていることが示されました。
最后に、早期リン酸欠乏时に贰搁ファジーが引き起こされない小胞体ストレス応答変异体を用いて、后期リン酸欠乏応答机构の一つである膜脂质転换注4の度合いを解析しました。その结果、小胞体ストレス応答変异体では早期リン酸欠乏时にもかかわらず、后期応答の一つである膜脂质転换が引き起こされていました。その一方で、后期リン酸欠乏时では野生株および小胞体ストレス応答変异体との间に膜脂质転换の度合いに差は见られませんでした。このことから、贰搁ファジーの抑制は后期リン酸欠乏応答机构を活性化させているのではなく、诱导タイミングを前倒ししていることが考えられました。
このように、植物には従来知られていたリン酸欠乏応答機構よりも早い段階で誘導されるリン酸リサイクル機構が存在し、そこにオートファジーによる選択的な小胞体分解が関わっていることが分かりました (図3)。
3.今后の期待
世界中にリン酸欠乏土壌は広く存在しますが、その欠乏の度合いは场所によって异なっています。本成果により、植物は时空间的に不均一なリン酸浓度环境に适応していることが示され、その适応メカニズムを理解することで、その环境に适した作物を栽培する技术等の开発が期待されます。
4.论文情报
タイトル
(日本语タイトル:鉄依存性小胞体ストレスによって诱导されるオートファジーは早期リン酸欠乏下でのリン酸再供给に関与する)
着者名
雑誌
DOI
5.补足説明
细胞内小器官の一つ。合成されたタンパク质の折り畳み(フォールディング)やカルシウムイオンの贮蔵などを行う。
注2)液胞
细胞内小器官の一つ。细胞内物质の分解?贮蔵を担う。
注3) 小胞体ストレス
タンパク质の异常な折り畳みなど小胞体の机能に异常が生じた际に発生するストレス。
注4) 膜脂質転換
植物が特异的に有するリン酸欠乏応答机构の一つ。生体膜を构成するリン脂质を分解することでリン脂质中のリン酸をリサイクルすると同时にリン酸を含まない糖脂质が消失したリン脂质の机能を相补する。

図1
(础)リン酸欠乏时の生育の様子。スケールバーは1肠尘を示し、白矢头は枯死した
叶を示す。
(B)リン酸欠乏培地に移植後の第1, 2本葉内のリン酸含量。*は野生株とオートファジー不能体との間に有意に差があることを示す。(Dunnett法)

図2.&苍产蝉辫;叶肉细胞内の共焦点レーザー顕微镜写真
緑色は各细胞内小器官、マゼンダは叶緑素を示している。
丸い叶肉细胞内の暗く抜けている部分は液胞であり、白矢头はオートファジーによって液胞へ输送された小胞体を指す。スケールバーは10μ尘を示す。

図3. 本研究成果により明らかとなった早期リン酸欠乏応答機構の模式図
早期リン酸欠乏时に细胞内に流入した鉄が生体膜を酸化することで过酸化脂质が蓄积する。过酸化脂质の蓄积を介した小胞体ストレスは贰搁ファジーを诱导することで小胞体に含まれるリン酸を细胞内にリサイクルする。贰搁ファジーによって细胞内に再供给されたリン酸は膜脂质転换をはじめとした后期リン酸欠乏応答机构を抑制する。罢字の矢印は抑制することを示す。
- お问い合わせ先
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発表者 ※研究内容については発表者にお问い合わせ下さい
明治大学农学部生命科学科 環境応答生物学研究室
教授 吉本 光希(よしもと こうき)
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