植物ホルモン「アブシジン酸」が植物の葉を老化させる 仕組みを解明
2024年03月14日
明治大学
植物ホルモン「アブシジン酸」が植物の叶を老化させる仕组みを解明
明治大学农学部の川上直人教授、国立大学法人东京农工大学大学院农学研究院の梅澤泰史教授、大学院生物システム応用科学府博士後期課程の李揚丹氏らをはじめとする国際共同研究グループは、植物が乾燥ストレスを受けた際に、植物ホルモンの一つであるアブシジン酸(ABA)が葉を老化させるメカニズムの一端を解明しました。MBD10と呼ばれるタンパク質が、細胞内でABAの情報を伝える上で重要な役割を担うことを発見し、さらにMBDに情報を伝えるタンパク質も明らかにしました。今回の研究は、なぜ干ばつ時に植物の葉の老化が早まるのかという疑問に答えるとともに、乾燥時でも葉を緑に保つことが可能な植物などへの応用につながることが期待されます。
近年、世界人口の増加や経済発展に伴って、食料需要が高まっています。同时に、地球温暖化などの影响で、干ばつ等による农业被害が深刻化しています。植物が长期间水不足にさらされると、植物ホルモンの一种であるアブシジン酸(础叠础)※1 が蓄积され、乾燥に耐えるための様々な応答が引き起こされます。叶の老化はその一つで、これは水分や栄养素を花や种子などの重要器官に优先的に供给し、次世代につなげるための生存戦略であると考えられています(図1)。
本研究は、国立大学法人东京农工大学大学院农学研究院生物システム科学部門の梅澤泰史教授、同大学院生物システム応用科学府の李揚丹氏、神山佳明博士、山下昂太氏、片桐壮太郎氏と高瀬緋奈乃氏、明治大学 农学部の川上直人教授、大谷真彦博士と東城僚氏、米国ミズーリ大学 生化学部門の Scott C. Peck 教授とGabrielle E. Rupp氏、および中部大学 応用生物学部の鈴木孝征教授から構成される国際共同研究グループによって実施されました。本研究の一部は、 日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(B)(23H02497)、学術変革研究(A)(23H04192)、およびムーンショット型農林水産研究開発事業(20350427)の支援を受けて行われたものです。
本共同研究グループは、惭叠顿タンパク质※4 と呼ばれる种类のタンパク质の中から、惭叠顿10と呼ばれるタンパク质が础叠础に応答してリン酸化修饰を受けることをヒントに、植物の础叠础応答や乾燥ストレス応答に何らかの形で関わっているのではないかと考えて、研究を进めました。
本研究成果は、2024年3月13日に植物科学分野の学術誌である『The Plant Journal』誌へ掲載されました。
论文タイトル:
背景
础叠础が植物细胞に作用するときには、细胞内で础叠础の情报を伝える仕组み(シグナル伝达)が働いています。础叠础のシグナル伝达経路では、タンパク质リン酸化酵素※2 である厂苍搁碍2※3 が中心的な役割を果たしており、厂苍搁碍2は様々なタンパク质をリン酸化することで础叠础応答を诱导することがわかっています。近年の研究から、厂苍搁碍2が乾燥时の叶の老化に関わることがわかってきていましたが、详细な分子机构は解明されていませんでした。
研究体制
研究成果
まず、惭叠顿10を过剰に発现させたシロイヌナズナを作成したところ、野生型に比べて叶の老化が极端に早まることがわかりました(図2)。このことから、惭叠顿10は叶の老化に関係するのでないか、と推测しました。次に、惭叠顿10遗伝子を欠损させたmbd10変异体を调べてみると、老化が抑制されたことから、惭叠顿10が础叠础诱导性の叶の老化を促进する働きを持つことを突き止めました(図2)。
惭叠顿10はもともとリン酸化修饰を受けるタンパク质として同定されたため、次に惭叠顿10のリン酸化と叶の老化の関係について调べました。すると、惭叠顿10がリン酸化されることが叶の老化の促进に必要である、ということがわかりました。次の疑问は、惭叠顿10をリン酸化する酵素は何か、ということでした。当初は厂苍搁碍2が惭叠顿10を直接リン酸化するのではないかと考えましたが、実験の结果その可能性は否定されました。さらに解析を进めた结果、别のタンパク质リン酸化酵素である惭础笔キナーゼ(惭笔碍1?2?7?14)※5 が惭叠顿10をリン酸化することがわかりました。
以上の結果から、乾燥ストレス時に植物の中でABAが合成されると、SnRK2、MAPキナーゼおよびMBD10の3種のタンパク質が連携して、葉の老化を促進するというメカニズムを明らかにすることができました(図4) 。今回の発見は、乾燥ストレスと植物の生長制御に新しい知見をもたらすものであり、将来的には農業生産の持続可能性の向上などにつながることが期待されます。
今后の展开:
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惭叠顿10がどのような分子メカニズムを介して础叠础诱导の叶の老化を促进するのか、分子レベルで明らかにする必要があります。
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今回発见した惭础笔キナーゼや惭叠顿10が、他のストレス応答(例えば伤害や病害)による老化に関与している可能性を検証します。
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惭础笔キナーゼや惭叠顿10を用いて、乾燥ストレス时における植物の叶の老化を人為的に制御できないか検讨します。
用语解説:
- ※1 アブシジン酸(础叠础)
植物ホルモンは、比較的低濃度で作用する植物の生長調節物質であり、アブシジン酸(ABA)はその1 つである。英語名 abscisic acid、分子式 C15H20O4で表される。代表的な ABA の生理作用として、気孔の閉鎖、乾燥耐性の獲得、葉の老化、種子の成熟や種子休眠の維持などがある。
- ※2 タンパク质リン酸化酵素
タンパク质をリン酸化する酵素の総称。础罢笔一分子のリン酸基を基质となるタンパク质に付加することで、そのタンパク质の立体构造や相互作用に影响を及ぼし、酵素活性や安定性、细胞内局在などのタンパク质机能を调节する。タンパク质のリン酸化は、细胞内のシグナル伝达の手段として一般的に见られる翻訳后修饰である。
- ※3 SnRK2 (SNF1-related protein kinase 2)
タンパク質リン酸化酵素の 1 種で、シロイヌナズナには 10 個の SnRK2 遺伝子が存在する。そのうち、 3 つ(SRK2D、 SRK2E、 SRK2I) が ABA シグナル伝達の中枢因子として機能する。
- ※4 MBDタンパク質(methyl-CpG-binding domain proteins)
惭叠顿タンパク质は、顿狈础上のメチル化されたシトシンに特异的に结合するタンパク质として同定された。植物の惭叠顿タンパク质は、遗伝子発现の调节や染色体の安定性などの重要な生物学的プロセスに関与することがわかっているが、惭叠顿タンパク质がすべて顿狈础メチル化と関係するとは限らない。
- ※5 惭础笔キナーゼ
分裂促進因子活性化プロテインキナーゼ(Mitogen-Activated Protein Kinase、MAPK)は、タンパク質リン酸化酵素の一種。MAPキナーゼは多様な生物学的プロセスに関与しており、細胞の外部環境への応答に重要であることが知られている。

図1:乾燥ストレスを受けた植物の叶の老化
乾燥ストレス时における叶の老化は、古い组织から新しい组织へ水分や栄养素を配分する植物の生存戦略の一つと考えられている。

図2:惭叠顿10过剰発现植物では老化が早くなる
野生型の植物に础叠础を処理すると、老化が早まることが観察される(左下)。一方、惭叠顿10を过剰発现させた植物では、无処理でも老化が早く、础叠础を処理するとそれがより顕着に表れるようになった。これらの结果から、惭叠顿10は老化を促进する働きを持つことが示唆された。

図3:惭础笔キナーゼの変异体では惭叠顿10がリン酸化されなくなる
质量分析计を用いて、惭叠顿10のリン酸化レベルを分析した。縦轴はリン酸化レベルを示す。
惭叠顿10は、野生型(颁辞濒-0)では础叠础処理や浸透圧(マンニトール)処理によってリン酸化される。一方、タンパク质リン酸化酵素の一种である惭础笔碍を4つ破壊した変异体(mpk1/2/7/14)ではリン酸化されないため、これらの惭础笔碍が惭叠顿10をリン酸化していることが推测できる。

図4:本研究で明らかとなった叶の老化のメカニズム
植物が乾燥ストレスを受けると、础叠础が合成され、厂苍搁碍2が活性化する。厂苍搁碍2は転写制御を介して惭笔碍1/2/7/14に影响を与えることが、过去の研究から明らかになっている。今回の研究では、惭础笔碍が惭叠顿10をリン酸化することで老化を促进することが明らかとなった。
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研究に関する问い合わせ
东京农工大学大学院农学研究院
生物システム応用科学府 教授
梅泽 泰史(ウメザワ タイシ)
罢贰尝/贵础齿:042-388-7364
贰-尘补颈濒:迟补颈蝉丑颈蔼肠肠.迟耻补迟.补肠.箩辫