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Master of Public Policy, MPP

公共政策のプロフェッショナルを育成するガバナンス研究科

【小林良樹特任教授】危機状況下で考えること: 「現場の使命感」と「日本の美徳」で現場崩壊を回避できますか?

本コラムは明治大学公共政策大学院に所属する小林良樹特任教授が執筆しております。 笔者:小林良树教授

本稿の执笔に当たりまず、今回の新型コロナウイルス感染症をめぐる事态の中で被害にあわれた方々にお见舞い、お悔やみを申し上げたいと思います。また、医疗従事者の方々を始め现场の最前线において対応に当たられている方々に対し、この场を借りて一国民としてお礼を申し上げたいと思います。


本稿では、2011年3月の东日本大震灾の事例を基に、标题である「现场の使命感と日本の美徳で现场崩壊を回避できますか?」という问题について论じます。その上であわせて、现在进行中の新型コロナウイルス感染症をめぐる事态に関して简単にコメントをしたいと思います。

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危机管理の「危机」とは何か?

「危机管理」という言叶が日本において一般に知られるようになったきっかけは、故佐々淳行氏による「危机管理のノウハウ」のという书籍の出版(1979年(昭和54年))まで遡ると言われています。では「危机管理」の「危机」とは何を指すのでしょうか? 学术上の定义に関しては様々な见解がありますが、概ねコンセンサスが得られている基本的な要素としては「大损害」、「紧急性」、「不透明性」、そして(前记3つの结果として)「平时とは异なる対応の必要性」等があげられます。こうした基準に照らしてみると、2011年3月の东日本大震灾や现在の新型コロナウイルス感染症をめぐる状况は、ほぼ间违いなく学术研究上の「危机」の范畴に入ると考えられます。

东日本大震灾の経験:なぜ现场崩壊は起こらなかったのか?

東日本大震災の際、現場において避難誘導、救援、捜索等の初期的な対応に当たった「ファースト?レスポンダー(初期現場対応者)」は主に消防、自衛隊、警察等の関係者でした。当時のファースト?レスポンダーの特徴の一つは、端的に「逃げなかった(任務放棄をしなかった)」ということです。ちなみに、「危機において多数のファースト?レスポンダーが任務放棄をしてしまう事態」を本稿では「現場崩壊」と言うこととします(* 学術用語ではありませんので念のため)。その意味では、東日本大震災の際、少なくとも筆者の承知している限り、現場崩壊は発生しなかったと言えます。


「その程度は当たり前だろう」と言われるかもしれませんが、実は、世界中の危机管理の様々な事例をみると、ファースト?レスポンダーの大量任务放弃、すなわち现场崩壊が生じた例は先进国においてもあります。着名な例として、2005年8月に大型台风?ハリケーン?カトリーナがニューオリンズ市を含む米国南部を袭った际、同市の警察官の多くが任务放弃をして逃げてしまった例があります。こうした例に比较すると、东日本大震灾の事例、特に、震灾?津波被害に加えて原発事故による放射能被害の危険性もあった福岛県の事例は特笔に値すると思われます。


福岛県の警察官の行动に议论を绞りますと、东日本大震灾の后、当时の现场の警察官の働き振りについては、(诸外国に比较して)「日本の警察官のモラル(使命感)の高さ」、「仲间で助け合う日本人の美徳」の赐物等として説明されることが少なくありませんでした。しかし、こうした「使命感や美徳で乗り切った」という一般的な説明に、笔者自身はやや违和感を覚えました。そこで、震灾から约1年半后、福岛県警の协力の下、震灾発生当时に双叶警察署(福岛第一原発の直近に位置する警察署)に勤务していた警察官约100人に対してアンケートと闻き取りを実施し、震灾発生直后、特に福岛第一原発の原子炉の爆発直后の心境に関する调査を実施しました。调査?分析の详细は省略しますが、结果の概要は以下のとおりです。(※ご兴味のある方は、调査结果ををご覧ください)。

  • 现场の警察官の多くは、実际は「逃げたい」と内心考えることがあった(特に福岛第一原発の爆発の直后)。理由の多くは「家族が心配」であった。すなわち、现场の警察官の多くは「职务上の使命感」と「个人的な恐怖や不安」の葛藤の下で勤务していた。
  • 结果として逃げなかった背景には、使命感のみならず、「耻の意识(世间体)」、「内轮の同调圧力」等様々な要因がある。さらに、个人の意思のみならず、环境面において幸运な要素(発生时间帯、时期、地理的状况等)が作用した可能性もある。
  • したがって、「日本の警察官は真面目だから、将来の大灾害等の危机状况下でも常に全员が职务に従事するはずだ」との楽観论は必ずしも成り立たない可能性がある。
  • 将来の危机における现场崩壊を防止するためには、単なるモラル教育のみならず、ファースト?レスポンダーである警察职员がより安心して勤务を継続できるような诸制度(例えば、危机対応に当たっているファースト?レスポンダーの家族へのサポート制度)の构筑等、组织として所要の制度改善を行う必要がある。

  • 本稿の标题である「现场の使命感と日本人の美徳で现场崩壊を回避できますか?」という问いに関し、こうした东日本大震灾の际の警察の経験に照らして言えば、「必ずしもそうではない」ということになります。


    ちなみに、社会心理学等の各种先行研究によると、「日本人は米国人に比较して集団主义的(集団の利益を个人の利益よりも优先する心の性质)である」との仮説は必ずしも十分には支持されていません。「日本人の逸脱行动を抑止しているのは、日本社会の相互监视的な文化や耻の文化である」、「人目のない场面では、日本人は米国人よりもむしろ个人主义的である」との指摘もあります。

新型コロナウイルス感染症问题への教训

さて、话を现在の新型コロナウイルス感染症问题に戻します。幸いなことに、本稿执笔の时点では、日本においていわゆる医疗崩壊や现场崩壊が生じたとの报には接していません。しかし、海外からの报道の中には、现场崩壊が生じていてもおかしくないような状况にあることをうかがわせるものもあります。今后日本においてそうした事态が発生するか否かは笔者には不明です。个人的にはそうした事态が発生しないことを祈るばかりです。
 

笔者自身は、医疗、疫学、経済等の専门家ではありません。したがって、现在进行中の个别具体の出来事や政策に関して直接の论评を加えることは差し控えたいと思います。その上で、前记の东日本大震灾の経験に照らしてあくまで一般论として言うならば、仮に现场崩壊が発生せずに済んだとしても、単纯にこれを「现场の使命感と日本の美徳の赐物」として総括するのは适切ではないと考えられます。すなわち、事态が镇静化した后、当时の现场の実情を冷静に検証し、必要な制度改善を検讨することが将来の同様の危机への対応のために有意义であると考えられます。医疗制度が社会に及ぼす影响の大きさにかんがみれば、そうした検証?検讨作业は、医疗界のみならず、医疗、行政、地域社会、学术等の共同作业として行われる必要があるのかもしれません。
 

さらに、今般の新型コロナウイルス感染症问题の影响は、医疗の现场のみならず、产业、教育等様々な分野に及んでいます。その意味では、医疗现场だけではなくそれぞれの业界、公司、组织等が各々の危机に直面していると言えるのかもしれません。その意味で、それぞれの业界、公司、组织等においても、事态が镇静化した后に(たとえ现场崩壊には至らなかったとしても)「现场の使命感と日本の美徳だけでは现场崩壊は回避できない」という意识の基に必要な事后検証を试み、将来の叠颁笔(事业継承计画)等を再検讨することが有意义であると考えられます。

おわりに

危机状况下では、平时においては気付かれることが少ない社会の様々な问题点が顕在化することが少なくありません。「些细な违和感」を手掛かりにそうした诸课题を的确に把握し、改善に向けた知恵を出す(あるいは议论を提起する)ことは、ガバナンス研究?公共政策研究の使命の一つかもしれないと考える次第です。